特集
ご当地ほりにし甲子園に参加する自治体にフォーカスする「ごとほりリポート」。
各地域が持つ資源をどう活用し、ご当地ほりにし甲子園へ向けて進んでいるのか、直接現場に行って取材してきました。
第1回目は兵庫県多可町です。多可町の今を切り取ってご紹介します。
多可町は、"酒米の王様"と呼ばれる「山田錦」発祥の地だったり、1300年の歴史を誇る手漉き和紙「杉原紙」の産地だったり、豊かな自然と共に独自の文化を育んできました。そんな町でまず足を運んだのは、「コケコッコー」と高らかな鶏の鳴き声が響く養鶏場でした。
鶏舎の前で鶏を愛おしそうに見つめるのは、株式会社「加美鳥(かみちょう)」代表の石塚竜司さん(48)。「昔は近所の鶏舎に入り込んで遊んでいました。この町で鶏と一緒に育ったようなもんです」と懐かしそうに語ります。
元々は地元でプロパンガスの運搬の仕事をしていた石塚さんでしたが、ある時、知り合いの農家から養鶏を継いでみないかと声がかかりました。当時、ほかの地域の地鶏やブランド鶏に押され、ピーク時には100軒以上あった農家もわずか数軒に減少していました。
「このまま何もせずに廃れさせるのはもったいない。子どもの頃から慣れ親しんだ鶏で町を盛り上げたい」という思いを胸に、31歳で脱サラして養鶏の世界に飛び込みました。
美味しさには絶対的な自信がある一方、まだまだ知名度が低い現状に、「生産者の自分が前に立って魅力を伝えないとあかん」と一念発起。2022年6月には、自慢の鶏と卵を発信する拠点として「鳥、マルシェ。多可町」を町内にオープンさせました。農産物の直売所を改装した建物で、可愛らしい鶏のオブジェが目印になっています。
店には飲食スペースと販売コーナーを併設し、鶏肉のバーベキュー、新鮮な卵を使った卵かけごはん、ふわっふわのパンケーキなどを提供しています。
週末になると県内外からの観光客でにぎわい、石塚さんも作業の合間を縫っては店頭に立っています。
播州百日どりは2023年開催の第15回地鶏・銘柄鶏好感度コンテストで最優秀賞を受賞しました。「日本一になってお墨付きももらいましたけど、やっぱり農家は顔が見えてなんぼやと思うんです。目の前でお客さんが美味しいと喜んでくれるのが一番です」と語ります。
店内の壁の一面には手作りの「薪壁」はインパクト大。奥にはコールマンのビンテージランタンが並んでいたり、お皿にシェラカップを活用したり、キャンプ好きならではの遊び心がいたるところに散りばめられています。
そもそも佐藤さんが店を開いたのは「地域のコミュニティを活性化させたい」という思いから。12年務めた地元の会社を辞め、独学で料理を学びながら、夫婦二人三脚で店を切り盛りしてきました。「この2年間で徐々にお客さんも増え、少しは思い描いていた場づくりができたかな」と話します。
石塚さんは「多可町には鶏を含めてもっと人を呼び込めるポテンシャルがある。東京まで行くからには負け戦をしに行くつもりはありませんよ」と自信をみなぎらせ、佐藤さんは「兵庫のど真ん中にこんなにおもしろい街があるよって知ってもらいたい」と意気込みます。
取材のついでに立ち寄った道の駅「杉原紙の里・多可」では、一足先に播州百日どりをいただきました。固すぎず柔らかすぎない、甘味が強くジューシーな肉質は絶品でした。これにほりにしをかけたなら...。それだけで美味いのはわかりきっているんですが、なにやら「多可町ここにあり」の斬新なレシピのアイデアがあるようです。
多可町のご当地ほりにしは町のシンボル「タカタータン」をあしらったパッケージが採用されています。果たして当日はどんなレシピが飛び出すのか。播州百日どりや播州地卵はもちろん、地元ならではの食材がたくさんあるだけに、今からワクワクが止まりません。